オーラルケア市場の開拓者とは?!

こんにちわ。北見尚之です。

昨年からのコロナウィルス感染拡大に伴い、ハンドソープの需要が急増したことでライオンのハンドソープ「キレイキレイ」の売り上げが前年の3倍になり、
国内シェアトップであるライオン株に買いが集まりましたが、これは誰しもが予想できることです。
しかし、それ以上に好調なのが歯ブラシや歯磨き粉などの「オーラルケア」だとはご存知でしょうか。

ライオンではこの分野に集中投資をしてオーラルケア市場でダントツの実績を上げ、歯磨き粉で国内シェアの3割、歯ブラシで4割のシェアを誇ります。
では、ライオンはこの市場でどんな戦略で業績を伸ばしてきたのか。

オーラルケアの国内市場は約2500億円以上で、健康・美容意識の高まりもあり年2~3%ずつ確実に成長すると見られて市場性があります。
オーラルケア市場には「具体的な効能をアピールすれば、高単価を維持しやすく、価格競争に巻き込まれにくい」というメリットがあり、
ライオンでは戦略的優位性を確立するための努力の結果が「昼歯磨き市場の開拓」です。

同社の調査によると、オフィスで歯を磨きたいけれど磨けていない人が全体の22%、約400万人いることが分かりました。
2016年時点では1日2回歯磨きをする人は全体の80%にまで増え、1日2回歯磨きをしている人たちが3回磨くようになればさらに市場が拡大することは容易に想像できます。
そこで、この層に向けてライオンは「歯磨きを多くしてもらう」ための啓蒙活動をしてきました。

昼に歯磨きをすると、オーラルケアの観点から非常に良い効果が期待できるとされて、虫歯にもなりにくいし歯周病も防げる。
また食後のエチケットだけでなく眠気覚ましにもなります。
ライオンでは、プレス向け予防歯科セミナーを開催してオフィスでも「昼歯磨きをしよう」と呼び掛けそれに合わせて、
職場にキープしておいても恥ずかしくないような商品や、通気性がよくて清潔な状態が保てる商品を開発し会社でも歯を磨くことを習慣化するように推奨してきました。

このような啓蒙活動が驚くような変化が生み、ある消費者調査では2020年に歯磨き粉を「個人用に買った」人の割合が、「家庭用に買った」人の割合を初めて上回ったことが分かりました。
これまでは、歯磨き粉は家族みんなで使う商品でした。しかし20年には自分で使う商品へと変化しました。
多くの商品が、家族で使う物と個人で使う物はほぼ分かれています。そのため家族で使う商品が自分で使う商品へ変化したものはないのですが、それが変わり始めました。
家庭でも1人1本歯磨き粉を使うようになり会社でも自分用の歯ブラシセットを常備する人が増えました。
さらには、機能別に高単価な商品が出てきて虫歯予防だけでなく、口臭ケアや歯周病予防などを訴求する商品が登場しています。
この自分で使う商品にシフトすることで、商品は一般的に「高価格化」し同時に商品がピンキリ化し価格幅が広がります。
家族用ならできるだけ安くて量があるものを選びますが、自分用になると「質の良い商品」が好まれ自分のためには少しでもよいものを買う傾向が強まります。

結果的に歯磨き粉は低価格帯商品の比率が減少して高価格帯にシフトしています。
最近では、ドラッグストアでも高価格商品が並ぶようになり、通販では1000円を超えるような商品も登場してきています。

歯磨き粉は消費すれば確実に量が減る消耗品でなくなれば次の購買が見込めます。
よって、各年代への啓蒙活動により歯磨きを習慣化させ、さらに歯磨き粉の消費を増加させ、この分野でのトップシェアを維持し売り上げを安定させることに成功しました。
成熟市場でも売り上げを拡大させていく方法はあり、歯磨き粉市場のような成熟市場でも、細分化していけば市場はつくれるということが分かるいい事例となります。

ライオンは、オーラルケアの分野はまだまだ市場の開拓が十分ではないと同社では考えて、歯磨き粉の新工場を52年ぶりに建設すると発表しました。
日本人のオーラルケア製品に対する1人当たりの年間支出額は、予防歯科先進国である北欧諸国の6割程度なのでまだまだ発展途上です。
日本人の生活習慣を少しずつ変えていくライオンの啓蒙はまだ続きそうです。

やはりナショナルクライアントと呼ばれる大手企業のマーケティングや戦略は凄いですね。

北見尚之