客に選ばせない通販サイト

こんにちわ。北見尚之です。

物を買う時に自分で商品を選んで買うのが常識ですが、その常識が巷でのサービスで揺らぎ始めているようです。
客の好みに合わせて商品を提案するなどの「コンシェルジュ」サービスは、店舗でもネットでも一般的になってきています。
そして今度は、あるECサイトによる「ユーザーに商品を選ばせない」スタイルが密かに人気を集めている。
運営側が客の好みを予測し、本人自身も気付いていない「本当の好み」に合わせた商品を送るという仕組みです。
しかも、デジタルのテクノロジーを使って売るのはお菓子という異色の組み合わせで新しいモノの売り方に挑んでいます。

このサービスは、人工の添加物を使わないチョコやクッキーまたはスナック類など健康志向のおやつを百種類以上ネット販売しています。
ここで、実際に試そうとECサイトを訪れると、、、商品の購入ページが見当たらないのです。

初回購入のユーザーではすぐに商品を注文できず、約30問のクイズを答えなくてはならなくなります。
間食の時間や好きな味、お菓子の写真を見てどう思うかなど、ユーザーの嗜好を答えていきます。
全ての回答が終わるとやっとユーザーのマイページが生成されます。その後2-4週間に1度のサイクルで好みに合わせた菓子が宅配されます。
多くの質問に答えないと注文できないのはとても面倒に思えるが、運営側はそれが面白いのか途中でクイズを止める人はほとんどいないそうです。

現会員数は数千人規模にのぼりそのほとんどは20~40代の女性だそうです。健康志向で罪悪感をあまり感じず食べられるお菓子や、
おしゃれな色や基調のボックスも製作し、どんなおやつが届くかドキドキしたり、インスタ映えするデザインが女性に受けています。

ただ、このサービスの真価はユーザーも気付いていない好みを探し出すデジタルテクノロジーです。
運営側は初回に回答したクイズの回答を独自のアルゴリズムを使い嗜好を分析し、1回目のお菓子詰め合わせを送ります。
食べた後にマイページで、それぞれのお菓子に1-4までの星を付けて評価してもらいます。
この情報をさらに個人の味や触感に対する好みを分析し、ユーザーがお菓子を食べて評価を送るほど本当の好みを精密に把握できるようになる仕組みです。

マイページ上では、あなたはこのおやつが好きかもと商品を提案する機能もあるが、商品から食べたい菓子をユーザー自ら選ぶことはできない。
それは嫌いな商品が送られる可能性もあるが、運営側はそれは先入観で当商品を食べてみると意外と気に入ることもあり、
ユーザーの食わず嫌い改善や、自分でも知らなかった好みを発見するきっかけになっていると説明する。

このECサイトは菓子を卸すメーカーにとっても実験場となっていて「菓子のA/Bテスト」と呼ぶ試食システムもあります。
通常では大手メーカーは商品を世に出す前に、調査や試供品を無料で消費者に食べてもらって感想を聞いたりしています。
しかし、このECではメーカーが試作した菓子を通常の宅配するボックスの中に混ぜて消費者に届けます。
街頭で配っているような試供品のように無料ではなく一般商品の一部として売った上でサイト上で評価してもらいます。
これは消費者が商品を選べないというこの販売システムならではの機能です。

通常は試供品を消費者に届けるのに多大なコストを支払います。また試供品は無料にしその後のアンケートをとるのにも時間とコストがかかります。
このECに菓子を卸しているメーカー数十社の多くは中小で、大企業のような大がかりな消費者調査を実施するのは開発コスト的に難しいのです。
さらに試供品が無料であるという性質の関係で消費者は無料でもらった菓子をついついポジティブに評価する場合が多くなります。
グループインタビューなどをすると周りの意見に引っ張られることもあります。
この販売システムだと、商品への評価が次に届くお菓子の中身を左右するのでユーザーは素直に評価してくれます。

収集したデータをメーカーに戻しヒット商品が生まれたこともあるそうです。
菓子の業界では、大手であっても最先端デジタル技術を活用した事例はそう多くありません。
しかも、店舗販売は限られているためどうしても小売りの影響力が強くでて、ネットも大手ECサイトに頼るケースが一般的です。
その中でベンチャー企業が中小メーカーと連携し、消費者の味の好みというデータを武器に戦いを挑んでいくのは、
今後も一見無関係なジャンルや開発などを変える動きが加速しそうで何か楽しみになってきますね。

北見尚之