人手不足なのに転職エージェントが相次ぎ倒産する背景。

こんにちわ。北見尚之です。

転職経験者であれば人材紹介会社を一度は利用したことことがある人も多いと思います。
人手不足の今、企業と転職希望者との橋渡しをする存在としてより身近なものになっています。

しかし2023年は、2000年以降で最多の16件の倒産が発生し、コロナ禍前の19年の4倍と急増しているそうです。
人材紹介業の市場は2022年に3000億円を超え、年間18%以上の著しい成長を見せていて、
人手不足に加え、市場規模も拡大しているにもかかわらず、
なぜ倒産する人材紹介会社が出てくるのか。

そもそも「人材紹介会社」とは、転職エージェントと呼ばれることが多く、
人材紹介会社の正式名称は「有料職業紹介事業者」と言います。

求職者と企業などの求人事業者との仲介を行い、
就職が決まった際に手数料を受け取ることにより収益を得ています。
実はその歴史は意外と古く、江戸時代には人材紹介会社の原型があったといわれています。

人材紹介会社は許可制で、事前に管轄の労働局の窓口へ書類を提出し、
要件を満たしていると厚生労働省が判断した事業者のみが営業できます。
労働法の一つである職業安定法により活動内容が定められており、
建設や港湾事業者への人材紹介は禁止されています。

大手企業であれば求職者の方から問い合わせがあるかもしれないが、
特に中小企業に関しては、今までのようにハローワークや転職サイトに
求人票を掲載しても応募すらないというところもあります。
ハローワークへの掲載は無料ですが、転職サイトに求人を掲載するには費用が発生します。
どうせお金を払うのなら、確実に人を紹介してくれる紹介会社を利用しよう考える企業も増えています。

転職希望者にとっても、紹介会社は不可欠な存在となっていて、
従来は、ハローワークや求人誌、求人サイトなど求人情報は特定の媒体にクローズドに公開されていました。
しかし現在は、SNSや各社のサービスなどを通して手軽に、これまでと比べ物にならないほど多くの情報を入手できます。

人材紹介というビジネスの規模はさまざまですが、フリーランスから数千人を超える上場会社まで、
そのビジネスモデルはほぼ共通しており、実は至ってシンプルです。
紹介した求職者の入社が決まれば、紹介先企業から紹介手数料を受け取りこの紹介手数料が収益の中心となります。

一般的に紹介手数料は、入社が決まった求職者の初年度年収の30%前後といわれています。
年収500万円の人が入社したら、紹介会社は紹介先企業から150万円を受け取れます。

しかし、市場価値の高いスキルや技術を持っている求職者の紹介手数料は割合が高くなる傾向にあり、
ITエンジニアやAI技術者といった希少性の高い職種の転職では手数料100%ということもあります。
転職時の年収が1000万円だとしたら、そのまま1000万円が人材紹介会社に支払われるということになり、
AIや医療などの専門スキルを持っている転職希望者を抱えている会社のほうが収益性は良くなります。

一方で、短期の非正規雇用者の紹介に特化した会社もあります。
こうした仕事は「日々紹介」と呼ばれ、労働者に支払われる日給に対して何%といった手数料を受け取る仕組みとなっています。
手数料の割合は、正社員と比べて低いですが、スキルを求められないケースも多いので人数をそろえて対応するモデルとなっています。

また人材紹介会社は、派遣会社とその事業内容を混同されることがありますが、実態は異なります。
人材紹介会社は人を探している企業に求職者を紹介するまでにとどまります。
日々紹介といわれる案件でも、紹介した先の会社がアルバイト社員として雇用します。

それに対して、派遣会社は自社で雇用している人を企業に派遣します。
収益の柱は、派遣した会社に請求する料金と派遣社員に支払う給料の差額、すなわちマージン料によるものです。

一昔前は、マージン料によりボロ儲けしているというイメージがある派遣会社ですが、
昨今では派遣社員への社会保険料の企業負担分が増加しているため、
利益率は年々減少しており、営業利益率は5.9%前後ともいわれており、他の業界と比べて決して高いとはいえません。

人材紹介会社は、求人企業と求職者のマッチングのみですので社会保険料の負担は発生しません。
経費も紹介会社の社員の給与とその活動費くらいしか発生しないため、利益率が高いビジネスモデルといえます。
こうした状況を踏まえてか、職業紹介会社の新規参入は増え続けました。

しかし、参入業者が増えれば、当然競争は激化し、頭数をそろえるのが最低条件である派遣と異なり、
人材紹介会社は企業が求める高度なスキルを持った即戦力人材を集める必要があります。
人手不足とはいえ、要求するスキルが満たされなければ採用は見送られてしまいます。
ビジネスモデルがシンプルがゆえに、求職者の転職が決まらなければ売り上げはゼロになってしまいます。
売り上げがなければ、経営が成り立たなくなり倒産してしまいます。

こうした状況下だからこそ求職者は、どんな人材紹会社と選び転職活動を共にするかの選択が重要になってきます。
ただ、大手だから安心とかではなく、担当者が自分にマッチするかも一つの判断材料になると思います。

むやみに転職を急がせるたり、給与など転職先の良い面だけを強調する担当者だと、
転職してもイメージと異なる仕事内容や社風に満足できず、
再び転職活動するという無駄な時間と労力がかかる可能性がありますので、
焦らずに冷静に判断しながら人材紹介会社や担当者の見極めも必要になってくると思います。

北見尚之